大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和26年(ネ)2405号 判決

控訴代理人は原判決を取り消す、被控訴人両名は連帯して控訴人に対し金十万円及びこれに対する昭和二十三年八月九日から完済まで年五分に相当する金円を支払うべし、訴訟の総費用は被控訴人らの負担とする、との判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の各代理人が当審において主張した事実関係の要旨は、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

按ずるに当審における審理の結果控訴人の本訴請求は、原審におけると同様、理由のないものとして排斥しなければならない。

よつて、ここに原判決の理由を引用する。

なお、控訴人は、当審において昭和二十六年十月十六日附原審に提出した第二準備書面を陳述し、次のように主張している。控訴人の本件損害賠償請求の基本は、被控訴人両名が国家公務員法第八十二条第三号に違反し国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行をなして控訴人に損害を加えたものであるということにある。すなわち、訴外渡辺政綱の婿養子である渡辺武雄は昭和二十三年一月二十日控訴人を相手方として甲府地方裁判所に小作調停の申立をなし、山梨県南都留郡西桂村小沼九百八十九番地田六畝二十一歩は武雄が賃借人であり、且つ占有者であると主張して耕作の継続を求めた。被控訴人らはこの調停事件の調停委員となつて調停をしたのであるが、同年五月十六日調停委員という資格で、右土地は武雄が占有耕作している旨の証明書を作成して武雄に交付し、武雄はこれを疎明資料として谷村区裁判所に仮処分命令を申請し、(イ)右土地に対する武雄の占有を解き債権者の委任する甲府地方裁判所の執行吏の保管に付する。(ロ)執行吏は債権者に対し右土地の使用を許すことができる。という仮処分決定がなされた。右は、被控訴人らが職務上知ることができた秘密を漏したものであつて、国家公務員法第百条第一項に違反したものである、というのである。

しかし、原判決の理由にも認定してあるとおり、右土地は、武雄の養父政綱が控訴人から賃借小作していたものであるが、政綱は昭和十九年二月十一日隠居し武雄がその家督相続をしたので、右土地の賃借権を承継したのであつて、その後は武雄において右土地を占有耕作しているものと認められたので、被控訴人らは右のとおり本件土地は武雄において占有耕作している旨の証明書(甲第二号証の一、二)を作成して武雄にこれを交付したものである、というのである。そして右のとおり、被控訴人らが武雄において右土地を占有耕作しているものと認めたことについては相当の理由のあることであつて、根拠なしにただ漠然と武雄が占有耕作していると考えて右のような証明書を出したことではないし、また、何人が土地を占有耕作しているかというようなことは、その事柄の性質上秘密を要することではない。このような場合には、被控訴人らが調停委員として関与した事件についても証人として証言するとか、訴訟用として裁判所に提出する必要があるため証明書を出すというようなことは、公正な裁判をうるためにも必要なことであるから、武雄の個人的利益のためばかりではなく、公益上からも望ましいことであるということができる。従つて、調停委員の資格で右のような証明書を出したことをもつて一概に不当な所為なりとしてこれを非難し、国家公務員法の右各規定に違反したものであるという控訴人の主張は当らないことである。

よつて、控訴人の本訴請求を排斥した原判決は相当で、控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担については民事訴訟法第八十九条、第九十五条の各規定を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 藤江忠二郎 薄根正男 坂間孝司)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!